辻 信 吾
この度、弁理士稲葉慶和氏による「新・拒絶理由通知との対話」が上梓されることになりました。
同じ著者による本書の前身は、1989年に社団法人・発明協会から刊行され、好評のうちに増刷を重ね、実務家向けの研修教材としても重宝されてきました。
初心者にも親しみやすい著者独特の語り口で、ともすれば上毛の議論に陥りかねない拒絶理由通知(オフィス・アクション)への対応を、より適切で実りあるものへと誘う、多くの貴重な示唆を含む内容のものでした。
今回、その後の法律改正や、世の注目を集めたビジネス方法発明、生物関連発明に関する内容なども盛り込み、「新・拒絶理由通知との対話《として再登場する運びとなったことを、関係者の方々ともども心からお祝い申し上げる次第です。
著者の稲葉慶和氏は、長年日本特許庁にあって、情報・通信など先端分野での審査・審判官として活躍され、近年は多忙な弁理士業務のかたわら、セミナー講師として民間部門の人材育成の面でも実績を積んでこられました。今回の書には、すでに5年余に及ぶこれら民間部門での経験も随所に生かされていることがうかがわれます。
知的財産重視の時代を迎えた今日、迅速かつ適正な特許権の設定が、官民双方にとって喫緊の課題となっており、そのためにも特許庁から拒絶理由通知が出される段階での、公的な立場を代表する審査・審判官と出願人・代理人との間の、十分な意思の疎通が従前にも増して望まれているところです。
出願人側の立場で、限られた時間内での的確な応答能力を養うための、適切かつ分かり易い解説書が待望されるゆえんでもあります。
本書が、発明の十全な保護、安定した権利の設定のため日夜腐心されている特許実務家の方々、実務家への道を歩み始めた方々にとって、滋味豊かな糧となることを念ずる次第です。
(弁理士 元特許庁特許技監)