【推薦のことば】
本書を特許に関わるすべての方々にお勧めします
奥山 尚一
特許に関わる仕事をしている者にとって、特許クレームのドラフティングは永遠の課題である。
それは画家や彫刻家にとってデッサンにあたるもので、クレームを作成する者だけではなく、侵害訴訟や鑑定においてクレームを読み解こうとする者、弁理士が作成したクレームをチェックする立場にある技術者にとっても同じである。
特許クレームが難しいのは、それが現実に使われる技術そのものを表現するものではなく、特許法によって保護の対象となる「発明」と呼ばれる抽象的な技術的思想、つまりアイディアを、言葉を駆使してうまく表現しようと特許の世界で独自に開発されてきたものだからである。
私はよく「娑婆と特許の世界は違う」といっているが、日本語でも英語でも、クレームには独特の文法があって、それは普通の文法とは全く異なっている。クレームでの物と方法の表現の使い分けなどその最たるものであろう。まず、その文法の特殊性を学ばなければならない。その上で、発明者が考えた具体的な「発明」に正面から向き合って、それを特許法によって保護される「発明」に昇華させていくが、その際には、いくつも考えなければならない事項がある。
本書においては、冒頭からまず核心に入っている。第1章、第1節はクレーム作成の上で考えなければいけない4つのポイントで始まる。すなわち、(1)クレームは他社製品もカバーする必要がある、(2)権利行使のことを考えろ、(3)無効の主張に耐えうるものでなければいけない、(4)外国語への翻訳を考えろ、の4点である。そして、たくさんの例を交えながら、クレームの基礎的文法を丁寧に解説している。第2章では、さらに実践的に細かい文法と決まり事を解説していく。最後の第3章では、第1章と第2章にある豊富な実例に加えて、10個の演習問題がある。これは、クレームドラフティングを教授する者にとっては格好の題材となろう。
また、本書の特徴として、最新の傾向と特許法の直近の改正にも対応していることがあげられる。たとえば、平成25年7月から使われることになった単一性とシフト補正に関する改訂審査基準や、同年5月の米国CAFCによるCLSバンク事件における大法廷(en banc)判決さえも詳細に解説されている。特許法や特許出願の審査基準の改正も頻繁に行われるが、実はクレームのスタイルにもはやり廃りがあって、今回新たに書き起こされた本書は、直近の状況をよく反映していることが見て取れて、安心して読み進むことができる。
私も特許の仕事をするようになって25年ほど経った。自らの能力もいまだに発展途上であると感じるが、外国でクレームドラフティングを教えることもあるし、日本の大学でも教えたりする。生徒に課題を与えるといまだに新しい発想を発見することがある。
本書は、初学者の方々にとっては、本当の入門のところから、おそらくはその後4,5年はかかる独り立ちの時までのよいガイドになってくれるだけの奥行きを持っている。また、既に経験豊富な方々にとっても、クレームドラフティングの現状を再確認する上で、一読をお勧めする。また、上にも触れたが、クレームドラフティングを教えようという方々にとって、その豊富な例と演習問題、わかりやすい解説が、おおいに参考になると思う。
特許に関わるすべての方々に本書をお勧めする所以である。
2013年11月
(弁理士 久遠特許事務所共同代表 前日本弁理士会会長)